第1章「始動」 chapter2 『一条 花梨』
次の日
俺が教室に入るとクラス全体がざわついてた
「おいおい、今日このクラスに転校生が来るんだってよ」
「高校で転校って珍しいな、ちなみに男子か?女子か?」
「それが結構可愛い女の子だってよ」
「お、マジか!」
なんだ、転校生か。
友達とか作らない主義だから正直転校生とかどうでもいい
俺が机で突っ伏してると1人の女子が声をかけてきた。
「高志、課題はちゃんとやったの?」
綾乃だった。
「ああ、めんどくせーけど一応やったよ」
「それならよかった。あんたの事だからまた放ったらかしてるのかと思った」
「いちいちめんどくせぇな。お前は俺の母ちゃんか何かか?」
「そういう訳では無いけど、一応ちゃんと心配してるんだよ。昨日のLINEも既読スルーだったし」
「返信が面倒なだけだよ。全く鬱陶しいなこの胸だけ女は」
俺がそう言うと、綾乃は顔を赤らめて自身の豊満な胸を抑える。
「この変態!スケベ!痴漢!もう知らない!」
綾乃は怒って去っていった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ったと同時に、教室のドアが勢いよく開く。
「お前らー、席につけー!」
担任の氷川 環先生が教室に入ってくる。
担当教科は世界史。少し言動はきついが芯は通ってるおり、なにより美人だから男女問わず生徒からの人気が高い。ちなみに独身。
「皆も知ってると思うが、今日このクラスに転校生がやってくる。一条、入ってくれ」
教室のドアが開き、銀髪ロングの女子が入ってくる
「一条 花梨と言います。よろしくお願いします。」
ん、この子は昨日の?
「お前らー、静かに!えーと一条の席はー、お!富井の横が空いてるな」
こういう作品のお約束というか、俺は所謂「主人公席」というところに座っている。どうしてこう都合よく窓から2番目の席が空いてるのだろうか?
「ちぇっ、なんでよりによってあのクソ陰キャの隣なんだよ…」
「富井ー俺と席変わってくれよぉー」
クラスの男子がざわつく。
「お前ら、静かにー。慣れない事も多いだろうから色々と教えてやれよー」
先生がそう言うと、転校生がこちらへ歩いてくる。
「富井さんって言うんですね、昨日はありがとうございました。これからよろしくお願いします」
「あ、ああよろしく」
昨日何故単身でアークデーモンと戦っていたのか聞きたかったが、休み時間は一条がクラスのやつらに質問責めにされてたので流石に無理だった
5限目は「護身」の授業だった。この世界で魔物から身を守る科目であり、実際に武器は魔法を用いての実践訓練を行う。今日は訓練用の戦闘ロボットを相手にする授業だった。
「アースエッジ!!」
一条の声が響き渡る。
昨日見た岩塊が戦闘ロボに襲いかかり次々と破壊していく。昨日も見たが、中々の戦闘能力だ。
「一条さん私と同じ地属性なのに凄い!今度その魔法教えてよ!」
「女子なのに戦闘能力高くて羨ましいぜ。それに比べて俺なんて…」
一条は当然クラスの皆にも注目される存在となった。
「もしや富井とも互角に戦えるんじゃね?」
そう、俺は勉強は平均クラスだが、生まれ持った戦闘の才能から護身の授業の成績だけは良かった。
ちなみに俺の先天属性は『零』。基本属性のどれにも属さない特別な属性で、属性相性に関係なく戦闘が行えるので、戦闘ではかなり有利となる。
「富井さん、よろしければ一騎討ちをさせていただけないでしょうか?」
一騎討ちとは、言葉の通り生徒が1対1で戦うルールの事だ。護身の授業の時間内で、両者の合意のもと、担当教員に申請さえすれば自由に行う事ができる。
「ああ、構わないが」
俺も正直最近この授業は退屈だったから丁度いい。俺と互角に戦える生徒が全くおらず、一騎討ちを申し込んでも断られる一方だからだ。アークデーモンに単身で勝負を挑もうとしたような実力だ。少しは骨があるといいが。
俺たちは担当教員に申請をし、今いる訓練所の隣にあるバトルアリーナへ移動した。
「これより、富井 高志VS一条 花梨の一騎討ちを行う!両者ルールは分かっているな?」
「ああ!」
「はい!」
一騎討ちのルールは簡単、制限時間内にどちらかが降参するまで戦う事ができる。但し相手を怪我させたり、殺すような真似をすればすぐに失格負けだ。
「一条さーん、あんなクソ陰キャやっつけてやれー!」
「そうだそうだー!一条さんに何かあったらぶっ潰すぞおめぇ!」
周りの生徒のヤジが飛んでくる。鬱陶しい。
ちなみに一騎討ちは護身の授業中の生徒なら誰でも観戦が可能だ。尤も、観戦を理由にして授業をサボろうとする生徒もいるが。
「それでは、バトルファイッ!!!」
教員の掛け声と共に戦闘が始まる。
「よろしくお願いします!」
「ああ、遠慮なくいくぜ!」
「居合・零!!」
先に仕掛けたのは俺の方だ、居合による素早い斬撃が一条に襲いかかる。
「甘いですよ!アースエッジ!!」
一条は斬撃をひょいと躱し、地属性魔法を繰り出す。
俺は地面から出てきた岩塊に飛び乗り、その上を伝って移動する。
「居合・零!!」
俺は再び斬撃を繰り出す。
「アースウォール!!」
地面から巨大な壁が出現する。これも昨日見たやつだ。
「くっ!」
俺の身体能力をもっても、この高さは越えられない。俺は空中で一回転し、何とか体制を整えようとするが…
「アースクエイク!!」
地面が強く振動し、バランスを上手く取れず着地に失敗した。
「くっ!中々やるな!」
「感心してる場合じゃないですよ!勝負はこれからです!アースエッジ!!」
地面から這い出る岩塊を俺は素早く躱し、俺は一条の懐へ入り込む。
「鎌鼬・零!!」
一条の喉元に強力な突きを入れる。
「きゃっ!」
流石の一条もこれを躱すことはできなかったらしい。
「富井さん、やっぱりお強いですね!」
一条が立ち上がり、何やら長い詠唱を始めようとする。
「奥義か…流石にこれは喰らうと不味いな」
今ならあの技も繰り出せるか。一度一騎討ちで使った事があるが、相手の生徒に全治3ヶ月の重症を負わせて停学処分を喰らったあの技…今なら使える!
「無属性剣技参の型…」
俺が剣技を繰り出そうとした瞬間、アリーナの壁が壊れる。
「きゃーっ!!」
「魔物だー逃げろー!」
破られた壁から巨大な植物のような魔物が生徒達を襲い始めた。自身の茨を使って観客席の生徒を攻撃する。生徒は直ちにアリーナから避難したが、逃げ遅れて捕食された者もいた。
「あれは、マンイーター!何故うちの学校の近くに!自警団は何をしているんだ!」
教員の声を聞き、俺は昨日のアークデーモンの件を思い出した。何故連日で上級魔物がこんなに…
「一般生徒は直ちに避難!戦闘に自信のある者は私と共に戦ってくれ!マンイーターは火に弱い!火属性の生徒が残ってくれると助かる!」
「ああ!」
「私も戦います!」
俺と一条は残る事を決意した。
そこでもう1人…
「先生!私も戦います!」
自ら戦闘に躍り出たのは、学級委員長の越谷 綾乃だった。