赤崎の創作部屋

自作小説置き場です

第1章 始動 chapter5 『氷川 環』

その日も、俺は職員室に呼び出されていた。

 

「富井、また課題未提出か。これで何回目だ?」

担任の氷川先生である。俺が課題を全く出していなかった事に対して痺れを切らしたそうだ。

「別に課題くらいやんなくてもいいじゃないすか。テストで赤点取ってる訳じゃないんだし」

氷川先生は呆れた顔をして、顔に手をやる。

「そう言う問題ではないだろ?何回も言ってるが内申点にそろそろ響いてくるぞ?君は特別成績が言い訳じゃないし、部活もやってない、かと言ってこれと言った資格を持ってる訳では無いだろ」

「零属性…(ボソッ)」

「あのなぁ、自警団にでも入るつもりなのか?確かにお前の戦闘能力が高いのは認める。ただそれだけが高くても社会に出たらやっていけないぞ?」

確かに正論だ。魔物と戦う事ができるだけじゃ人間社会は生きていけない。ただめんどくせぇ。

「他の先生からも苦情が来てるぞ。特に英語のビアンカ先生は『富井君は2年になってから全く課題を出していないわ。ステキね』って言ってたぞ。素敵ではないが」

「はいはいやればいいんでしょやれば」

氷川先生はムッとする

「なんだその態度は?大体お前はいつも…」

 

この後長い説教を聞かされたが、先生の黒タイツ越しの絶対領域が終始気になり、話しが全く頭に入ってこなかった。

 

下校中

商店街の方が何やら騒がしかった。

 

「キャーッ!魔物よー!」

「た、助けてくれー!」

「自警団はまだかー!?」

どうやら商店街に魔物が発生したらしい。ちょっと相手しに行くとするか。

 

そこにいたのは、棍棒を持った1つ目の巨人だった。

ダイダラボッチ、また上級魔物か!」

アークデーモンマンイーター、更にはダイダラボッチと最近この付近に上級魔物が相次いで発生している。これは流石に異常現象だ。

 

「商店街にいる人は1人残らず避難してください!こいつは俺が仕留めます!」

「あんた、若いのに大丈夫かね?」

付近にいた老人に声をかけられる。

「ええ、戦闘には自信がありますから!この前も公園に出現したアークデーモンを倒してますし!」

「あのデカブツを退治してくれたのは君だったのかい?これは頼もしい!頼む、この街を救ってくれい!」

「分かったよ爺さん、とりあえず避難してください!」

「健闘を祈るぞ」

そう言ってその老人は他の住民と共に避難して行った。

 

「さて、やりますか」

俺が剣を構えようとしたところ…

「お前1人であいつと戦うのか?流石に無理がないか?」

「せ、先生!?」

俺の後ろにいたのは氷川先生だった。

「仕事が早く終わったから商店街で買い物してたらこのザマだよ、全くツいてないね」

「助かります!1人より2人の方が効率いいですし!」

氷川先生は水属性の使い手。戦闘能力も高く、俺の通ってる高校の教員では間違いなく最強クラスだ。まともに戦ったら俺でも勝てるか分からない。

「ずべこべ言ってる暇はないよ!さぁ、戦闘開始!」

「はい!」

 

ダイダラボッチも俺達に気付いたのか、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 

「頞部陀!!」

 

氷川先生がそう叫ぶと、ダイダラボッチの周囲に巨大な氷の塊が現れ、閉じ込める。

 

「頞部陀!!続けて虎虎婆!!」

 

水属性魔法の連続詠唱。氷川先生の得意技だ。普通魔法の詠唱にはかなりのエネルギーを消費し、次の詠唱までクールダウンの時間が発生するが、氷川先生にはそれが殆ど無い。相当魔法の修行を積まないと成し得ない技だ。

 

「富井!何をボーッとしている!さっさと攻撃しろ!」

「言われなくても分かってますよ!居合・零!!」

氷の檻に閉じ込められたダイダラボッチに強力な斬撃を与える。中級魔物くらいであればこれで仕留められるのだが、流石は上級魔物とあってダメージが少し入る程度だ。

 

「頞部陀!頞部陀!虎虎婆!!」

氷川先生の連続詠唱と同時に、俺も斬撃を放つ。

「居合・零!!」

ダイダラボッチが後ろに大きくよろめく。

「富井!次で止めを刺す!お前も斬撃を合わせろ!」

「分かりました!」

 

「奥義・鉢特摩!!!」

 

辺り一面が凍り始め、極寒の寒さになる。普通の人であれば立っていられるのがやっとだろう。

地面も凍ってしまうので足場が多少悪くなるが、逆にこの滑りやすいのを利用し、普段では出来ない程の高い跳躍をする事ができる。フィギュアスケート等で使われている原理だ。

 

「隼・零!!」

俺は身動きが取れなくなっているダイダラボッチを目掛けて跳躍し、高速で複数の斬撃を繰り出す。

 

「これで止めだ!鎌鼬・零!!」

ダイダラボッチの巨大な1つ目を目掛けて強力な突きを繰り出す。上級魔物といえど、流石にこの連続のダメージには耐えられず、消滅していった。

 

「やった、倒したぞ!」

「見事だ、富井!」

俺のような近接型のスピードタイプであれば鈍足のダイダラボッチのような1人でも倒せたが、苦戦はさせられたであろう。今回は凍結系の魔法を使える氷川先生がいて本当に助かった。

 

「ふっふっふ、ダイダラボッチをいとも簡単に倒すとは流石だな」

前方から誰かの声が聞こえる。

 

「誰だ!?」

そこに居たのは、長身で金髪の少しチャラい見た目をした剣士だった。

「すまない、自己紹介が遅れたな。俺はゼパル、世間じゃよく『天魔王』って呼ばれてたなぁ」

 

「天魔王って、あの古代対戦の!?」

ザルツブルク側の名将…」

俺は目を丸くする。

「冗談言え!天魔王は1000年前の人間だ!このハッタリ野郎が!」

「ハッタリかどうか試してみるぅ?」

 

ゼパルが剣を構える。

「上等だ!行くぞハッタリ野郎!」

 

「うおおおおぉ、居合・零!!」

「甘いな」

ゼパルは俺の懇親の斬撃をひょいと交わし、反撃を繰り出す。

「赤き悪魔(スカーレットデーモン)!!」

ゼパルの斬撃により、俺は後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

「頞部陀!!虎虎婆!!」

氷川先生も凍結魔法の詠唱をする。

「連続詠唱か、そこのおねーちゃんは少しやるじゃねぇか?でもまだまだぁ!極焔獄(インフェルノ)!!」

辺り一面に炎の渦が立ち込め、氷を溶かしていく。

「くそっ!」

「なんだ、この程度か?全くつまんねーなぁ

このまま止めを刺してやってもいいが、それだと面白くねぇ。俺がこの国の強いヤツ集めて闘技大会を開いてやるからよぉ、そこで勝ち残ったらリベンジを受けてやってもいいぜぇ?な、悪くない話だろ?」

「くっ、仕方あるまい。今ここで貴様に敗れたのは心残りだが、闘技大会とやらに出てやる。富井はどうだ?」

「ああ、もちろん参加するぜ!」

「思ったよりも聞き分けが良くて助かったぜぇ。闘技大会は1週間後、都内最大のバトルアリーナ『コロッセオ』で行う。ルールは1グループ2人のグループ制。もちろん1人で参加してもらってもいいぜぇ?そこでトーナメントを行ってもらい、優勝したチームがこの俺と戦う権利が得られるってもんだ」

「分かった。ただゼパル、1つだけ聞きたい。最近この付近に上級魔物が多数発生しているが、これはお前が関係しているのか?」

「は?そんな事する訳ないだろぉ?俺は強いヤツと直に戦いたいだけさ?そんな汚いマネはしねぇよ」

そう言うと彼は去っていった。

 

相次ぐ上級魔物の出現、亡者であるはずの天魔王との遭遇。不可解な出来事が次々と起こる。