第2章 強敵 chapter1『闘技大会予選』
土曜の朝
今日は闘技大会出場メンバーと顔合わせをする日だ。
「眠いな・・・乃亜の奴は部活に行ったか」
俺には3つ下の妹がいる。奴が通っている中学はバスケの強豪校らしく、今年も全国大会出場を軽く決めたようで今日も大会に向けた練習に励んでいる。
「俺も頑張らないとな」
俺はパンとコーヒーで軽い朝を済ませて、学校へと向かった。
グラウンドには既に闘技大会出場のメンバーが集まっていた。
「高志、遅い!」
綾乃が𠮟りつけてくる。どうやら俺以外のメンバーは既に集まっていたらしい。
「ちっ、めんどくせぇ」
「富井、今何時だと思っている?」
氷川先生にそう問われると、俺は慌てて腕時計を確認する。
時計の針は9時半を指していた。どうやら寝坊したようだ。
「9時半です・・・」
「集合時間は9時だったよな?30分も遅刻してくるとはいい度胸じゃないか?」
「すみません、先生・・・」
俺は軽く頭を下げる、とりあえずこの先生を怒らせると面倒くさい事になる。
この間は提出物を3回連続で忘れて廊下に6時間も立たされた・・・
「まぁいい、これから闘技大会出場メンバーのチーム分けを行う」
「うちからは富井、一条、越谷、東雲、関谷、モブA、モブB、そして私が参戦する」
「えっ、先生も参加するんですか!?」
「もちろんだ、あの天魔王とやらにリベンジをしてやらないとな!売られた喧嘩は買うのが常識ってもんよ?」
「先生完全に個人的な理由じゃないすか・・・」
まぁ俺も人の事が言える立場では無いが。
「私からの提案だが、富井・一条、越谷・古安、モブA・モブB、東雲・私のチーム分けにしようと思っているが、異議のある者はいるか?」
「特に問題は無いですけど、どうしてそのチーム分けなんですか?」
一条が質問する。
「各々の戦闘力のバランスを考慮してだな、あとは属性の被りが無いように」
「俺は誰とも被る要素がないな(ボソッ)」
「富井、五月蠅いぞ!では異論は無いようだし1週間後の本番までにチーム毎にトレーニングをするなり作戦を立てるなりしておいてくれ!私からは以上だ」
「富井さん、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
俺のチームメイトは一条か。アークデーモンとの戦闘や護身の授業で実力は把握している。闘技大会を勝ち抜くのに頼りになるメンバーだ。
「トレーニングとかどうしますか?やはり私たちは戦闘訓練に特化した方がいいでしょうか?」
相変わらず俺と同じ戦闘バカだ。だがそれでこそ俺のチームメンバーに相応しい!!
「ああそうだな、ただ俺たち二人だけの訓練だと他の参加者たちの属性や戦闘スタイルに対応が難しくなるだろうし他のチームの奴らとも手合わせやっとくか」
「そうですね!」
それからトレーニングや本番での対策を立てつつ、闘技大会本番を迎えることとなった。
ーコロッセオー
「よく来たな諸君。これから貴様らには予選ラウンドを行ってもらう!」
「予選ラウンド!?試合はトーナメントじゃなかったのか?」
俺はゼパルに問いかける。
「本当はそうするつもりだったんだがよぉ、予想以上に参加者が集まってしまったから急遽予選を行うことにしたんだ」
確かに今回の参加チームは50チーム。予選段階からトーナメント形式で行っていては時間がとても足りない。
「貴様らにはこれから会場近くにある火山に行ってもらう。そこでレッドドラゴンの卵を早く持ってきた8チームが決勝トーナメント出場となる!」
「レッドドラゴン・・・あれは確か上級魔物・・・」
一条が呟く。
「上級魔物か!予選時の腕慣らしには丁度いい、最悪倒せなくても卵だけ奪ってこればいいしな!」
「でもレッドドラゴンは卵を奪われると狂暴化すると言われていますね。念のため睡眠爆弾を持って行った方がいいかと」
睡眠爆弾とは、自警団が民間人に提供している睡眠薬入りの爆弾のことだ。その辺のコンビニや護身用道具の販売店でも購入出来る。
「そしたら火山に行く前にいくつか購入しておくか」
俺たちは近くのコンビニで睡眠爆弾を買った後、火山に向かった。
ー火山ー
「よっしゃ、いっちょやってやるか」
「火山のモンスターは下級魔物でも強敵ですので、油断せずいきましょう!」
「当り前よ!」
この火山は数十年前からモンスターの巣窟になっており、一般人は立ち入り禁止となっている。しかし今回はゼパルの計らいから闘技大会参加者のみ立ち入りが許されることとなった。
「天魔王って自警団にも顔効くのな?」
「単に中にいるモンスターを倒してくれるからだと思いますよ。最近は火山内の闘争に敗れたモンスターが近隣住民を襲う事件も発生しているらしいですし」
「相変わらず人任せな自警団だなオイ・・・」
キシャーッ!!
「モンスターだな、軽くやっつけてやるぜ!」
火山に入って間もなく下級魔物のリザードマンとレッドスコーピオンが俺たちに襲い掛かってくる。
「こんな敵、すぐに片づけてやるよ!居合・零!!」
「アースエッジ!」
俺たちは下級魔物を蹴散らしながら火山の奥部へと向かう。
ー火山奥部ー
「だいぶ奥まで来たな。ここが最奥部か?」
「いえ、最奥部はまだまだです。しかも最奥部にはこの火山の主、『鎧黒竜ムスペルヘイム』がいますね。ムスペルヘイムは今の私たちの実力でも到底勝てる相手では無いです」
「そっか~いずれそいつにも挑んでみたいところだけど、今は卵探しに集中しないとな」
「ムスペルヘイムは特級指定魔物ですからね。出会ったら最後、一瞬で丸焦げにされてしまいます」
特級指定魔物とは、上級魔物より危険な存在であり、世界中の国から指定されている120の魔物の事である。一般人はおろか、自警団の精鋭が束になっても勝てない存在である。
そんなこんなで先に進んでいると、後ろから誰かの声が聞こえた。
「おっと富井、お前らも来てたか~」
声をかけてきたのは氷川先生である。当然東雲さんも一緒に居た。
「先生たちもですか、やっぱり来ると思ってましたよ。ところで今まで他に誰も見なかったけど俺たちが一番乗りなんですか?」
「いや、既に卵を持ち帰った者が一人いるらしい」
「まじか!?というか一人とはチームでの参加では無いんだな」
「ああ、今回唯一チームを組んでない参加者らしい」
「単身でもそこまで強いのかよ・・・というかいつの間にそいつは卵を持ち帰ったんですか?」
「予選が始まって間もなくだったらしいよ」
「まじかよ・・・いくら何でも早すぎないか」
「どうやら『瞬足』の使い手らしいな。直接戦うには厄介な相手になるだろう」
「皆さん、前にレッドドラゴンが!」
東雲が前方を指さす。
目の前には眠っているレッドドラゴンの姿があった。奥には卵が複数ある。
「ようやくおでましかレッドドラゴン!卵はいただいてやるぜ!」
「でも眠っていますね・・・上手く起こさないようにして卵を取らないと」
「誰か1人が取りに行った方がいいな、よし誰がやる?」
「・・・。」
まぁ、そうなるよな・・・
「ジャンケンにするか?」
間が持たなそうだったので、俺は無難な方法を提案してみた。
「そうですね、恨みっこなしで」
「じゃーんけーん」
一条 グー!
東雲 グー!
氷川先生 グー!
俺 チョキ!
「なっ、俺か・・・」
「やっぱ言い出しっぺが負けるオチだよなぁw」
先生がこっちを指さして笑う。
「ちっ、負けたもんは仕方ない、2つ取ってきてやるよ」
俺は抜き足差し足でレッドドラゴンの元へ向かう。
奥にある卵を二つ抱えて皆のいるところまで戻ろうとしたところ
「おっと・・・」
つまづいてレッドドラゴンの尻尾を踏みつけてしまった(;^ω^)
「あれ・・・これもしかしてやばいやつでは?」
グオーッ!!!
レッドドラゴンが目を覚ます。
「富井!お前何やってんだ!」
氷川先生の怒号が響く。
「すみません先生!でも流石に卵をふたつ抱えたままの移動はきついですって・・・」
グオオオオ!!!!
レッドドラゴンがこちらを目掛けて襲ってくる。寝起きなのと卵を取られたせいでかなり機嫌が悪いようだ。
「とりあえず全員逃げろ!!」
氷川先生が指示を出す。
「って、俺だけ卵抱えたまま逃走っすか!?そりゃないっすよ」
メロンくらいの大きさの卵を二つ落とさないように抱えながら上級魔物から逃走するとか流石にきついっす。
幸いなことに、レッドドラゴンの足はそこまで速くないので、足場の悪い火山でも俺たちなら何とか逃げられる。
しかし・・・
「溜めの合図、ブレスが来ます!!」
東雲さんが叫ぶ。
どんなに足が遅かろうと、数十メートル先まで届くブレス攻撃は流石に脅威である。
レッドドラゴンは溜めの動作を終えると、直線状に炎のブレスを吐き出す。
「アースウォール!!」
一条は咄嗟に俺たちの前に出て詠唱する。
すると巨大な岩の壁が地面から突き出すように現れ、ブレスから俺たちを守る。
「助かったぞ一条、危うく黒焦げになるところだった」
「氷川先生と東雲さんで少しドラゴンの動きを止めてもらえないでしょうか?その間に持ってきた睡眠爆弾を投げます!」
一条がそう提案すると二人が一斉に詠唱を始める。
俺はというと当然そのまま走って逃げる。
「虎虎婆!」
「マリオネットエンパイア!」
レッドドラゴンの身動きが取れなくなってる間に、一条は睡眠爆弾を投げる。
「やったか!?」
睡眠爆弾は見事に命中し、レッドドラゴンはその場で倒れ込む。
「よし、今のうちに入口まで逃げるぞ!」
四人は何とか入口まで逃げ切った。
「ゼェゼェ・・・卵二つ抱えてあの距離を走るのは流石にきつかったぜ」
「富井さん、お疲れ様です。あとはこの卵を受付まで届ければ予選突破ですね」
俺たち2チームは卵を受付に届け、何とか予選を突破することとなった。
ちなみに俺たちの到着順は予想通り2、3番目だったらしい。
残りのチームの到着までロビーで休むこととなった。
暫くすると、越谷・古安コンビもやってきた。
「高志おつかれーって皆早くない!?」
このコンビは7番目だったらしい。
「優等生コンビの割には遅かったな、そっちは」
「いやいや高志たちが早すぎるんだって!私たちは属性的に予選のミッションがきつかったし!」
越谷は火属性、古安先輩は風属性。確かにこのコンビは火属性の敵がきつそうだな。
「まぁまぁ、ゴールできたからいいじゃん!決勝も頑張ろうよ綾乃っち」
流石生徒会副会長の古安渚先輩、持ち前の明るさで綾乃を励ます。
「ところで、綾乃たちはレッドドラゴンに出くわさなかったのか?」
「あー、ドラゴンね確か道中でぐっすり寝てる奴は一匹見つけたけど」
それ、俺たちを襲ったやつだわ・・・
8番目のチームがゴールした後、主催者のコールが鳴り響く。
「よし、予選はここまでだ!現時点でゴールしている8チームが明日の決勝トーナメント出場参加権を与える!明日9時よりトーナメント開始だ、遅刻は棄権扱いとするから気をつけろよぉ!?」
ゼパルはそう言うと控室へ戻っていった。
俺たちは明日に向けてそれぞれの自宅で休息を取ることにした。